衣食住遊 イセヒカリ 今日無事生かして頂いてありがとう御座います

2010年11月24日

イセヒカリ原種の特定と変種群

 原種圃を担当した吉松敬祐氏は、形質の上で明らかに変異種と分かるもの、極端に出穂期の異なるものを先ず外し、モード(中心となる部分)となるイセヒカリを選抜していった。平成8年、9年とこの要領で選抜をすすめ、農水省農業研究センター総合研究官横尾政雄先生に平成9年産種籾を送り、選抜について指導を請うたところ、その平成10年秋に「綺麗な稲です、純系確保のため個体選抜にはいるように、種は雑駁でした」との指示があった。平成10年秋に精英株8個体を選び、平成11年度より8系統ごとの個体選抜を開始した。これまでの集団選抜をした原種圃での選抜も併行して実施した。平成11,12,13年と8系統の個体選抜を観察する中で、系統番号2号神宮神田より送られてきたイセヒカリに草姿、穂相ともに良くこれを映し、食味も最高であることから、2号がイセヒカリ原種の第一候補として捉えられた。イセヒカリ2号を平成14年度は1本植えで1万本作付け、変異種の発如何が観察された。出穂時よく揃っているとみえたが、驚いたことに刈取り時(9月27日)今出穂、花盛りという1株があった。こうした稲は未だかつて山口県に無く、この超晩生の稲はイセヒカリ自身が創り出したものであると考える以外に無いものであった。
 原種を決めるに当たって1本植え1万本としたのは変種赤芒の糯の出現率が1万分の1であったからである。平成12年夏、出穂時に來県された静岡大学農学部佐藤洋一郎助教授(現国立総合地球環境学研究所教授)に、原種圃は1本植えなのに縦に白斑のはいる株が外しても外しても翌年出、育苗時その出る確率は3千分の1と考えられることについて御意見を伺ったことがあり、翌日中国山地の農家の圃場に一茎鮮やかに白斑が出現している実際をみられて、もしかするとイセヒカリはトランスポゾン(動く遺伝子)を拾った稲かもしれない、トランスポゾンを持つとするなら、われわれ学者には誠に面白いことですが、選抜される側には厄介な稲ということになります、イセヒカリは粳ですが糯が出ているかも知れません、栽培者に当たってみてくださいとの指導があった。当たってみると赤芒の糯が平成7年長門市の圃場で、翌8年には菊川町の圃場で出ていたことが追跡調査によって判明した。種子は神宮神田由来のもであったので神田に問い合わせてみると神田だは見ないとのことであった。山口県内の赤芒糯を見たことは無く、出現の理由は保留のまま時を過ごしたが、調査時点(平成12年)での出現率は1万分の1であったのである。
 要するに選抜過程でとらえられた変種は交雑によるものか、トランスポゾンなどによって突然変異なのかを見極める必要があり、発見された変種は一つ一つ後代検定にかけることとなり、一時は25aの原種圃に50区になんなんとする試験区が設けられる有様となり、原種圃担当吉松敬祐氏の苦労は大変なものとなった。
 イセヒカリ2号から出た超晩生種は実際経営のうえでは自然淘汰をうけて消滅するものであるから、山口県神社庁は「イセヒカリ2号」を「イセヒカリ原種」として扱いたい旨を神宮に申し出られ、平成14年12月5日、藤岡神宮少宮司(当時)のもとで原種として扱うことについての了承があった。原種が決まったのである。
 平成14年産の「イセヒカリ2号」が原種と定まったことで、山口県神社庁は大型冷凍庫2台を購入し1台を山口県神社庁、1台を原種圃担当吉松敬祐氏の農舎に設置し、原々種圃に用いる種籾を百年分凍結保存した。それを契機に山口県青年神職会は平成15年度より原種圃に斎田を設け、伊勢神宮御神田ならびに各神社神饌田の種子更新にあてる種籾の栽培にはいり、神宮には年毎に原種種籾を奉納する体制を整えた。
 農水省農研センターから筑波大学教授へ転出されていた横尾政雄先生は原種圃へ度々足を運ばれ、選抜過程で出た変種が突然変異によるものか交雑による分離のものかを実地に検分され指導してくださった。平成16年8月16~17日には原々種圃ならびに原種圃を審査され、「均一性、安定性、識別性ともに良く揃ってきた」と評価された。農水省から水稲の品種登録の審査員を委託されていられる方の眼にかなつたということで、関係者は安堵とともに、「イセヒカリ2号」を原種として扱うことについての自信を深めた。イセヒカリは品種登録こそ無けれ実質的にはその実を備えたのである。
 有望な変種ととみているものに、極早稲、赤芒の糯、稻先色糯、密穂まるたね、などがある。そのほか育種学、分子遺伝学上重要な試料とみられる超晩生を始めとする変異種は凍結保存し学術研究の試料に供しうる措置がとられた。


Posted by HAPPY BIRTH CAFE at 22:49│Comments(0)
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