衣食住遊 イセヒカリ 今日無事生かして頂いてありがとう御座います

2010年05月27日

おいしい村上春樹ワールド

世界の終わりとハードボイルドワンダーランドより
文庫p152,ハードカバーp127

ー食欲、失意、レニングラードー

彼女を待つあいだに、私は簡単な夕食をつくった。梅干しをすりばちですりつぶして、それでサラダ・ドレッシングを作り、鰯と油あげと山芋のフライをいくつか作り、セロリと牛肉の煮物をよういした。出来は悪くなかった。時間があまったので私は缶ビールを飲みながら、みょうがのおひたしを作り、いんげんのごま和えを作った。それからベッドに寝転んで、ロベール・カサドシュがモーツァルトのコンチェルトを弾いた古いレコードを聴いた。モーツァルトの音楽は古い録音で聴いた方がよく心になじむような気がする。でももちろん偏見かもしれない。
時間はもう七時を過ぎ、まどの外はすっかり暗くなっていたが、それでもまだ彼女はあらわれなかった。結局私は二十三番と二十四番のピアノコンチェルトを全部聴いてしまった。たぶん彼女は思いなおして、わたしのところに来るのをやめてしまったのかもしれなかった。もしそうだとしても、そのことをで彼女を責めることはできなかった。どう考えてみても来ない方がまともなのだ。
しかし私があきらめて次のレコードを探しているときに、ドアのベルがなった。魚眼レンズをのぞくと、廊下に本を抱えた書館のリファレンスの女の子が立っていた。私は鎖をかけたままドアを開き、廊下に他に誰かの姿がないか訊いてみた。
「誰もいないわよ」と彼女は言った。私は鎖を外してドアわ開け、彼女を中に入れた。彼女が中に入ると私はすぐにドアを閉め、鍵をかけた。
「すごくいい匂いするわねえ」と彼女が鼻をくんくんさせながら言った。「台所のぞいていいかしら?」
「どうぞ。でもアパートの入口あたりに変な人いなかった?道路工事をやってるとか、駐車場の車に人が乗っていたとか?」
「ぜんぜん」と言ってキッチンのテーブルに持ってきた二冊の本をひょいと置き、レンジの鍋のふたをひとつずつあけてまわった。「これあなたがぜんぶ作ったの?」
「そうだよ」と私は言った。「腹が減ってるんなら御馳走するよ。たいした料理でもないげどさ」
「そんなことないわ。私こうゆうの大好き」
私はテーブルの上に料理を並べ、彼女がそれを片端からたいらげていくのを、感心して眺めていた。これくらい熱心に食べてくれれば料理の作りがいもあるというものだ。私は大きなグラスにオールド・クロウのオン・ザ・ロックを作り、厚あげを強火でさっと焼いておろししょうがをかけ、それをさかなにウィスキーを飲んだ。彼女は何も言わずに黙々と食べていた。私は酒を進めてみたが、彼女は要らないと言った。
「その厚あげ、ちょっとくれる?」と彼女は言った。私は半分残った厚あげを彼女のほうにおしやって、ウィスキーだけを飲んだ。
「もしよかったら御飯と梅干しがあるしみそ汁もすぐつくれるけど」と念のためにたずねてみた。
「そうゆうの最高だわ」と彼女は言った。
私はかつおぶしで簡単にだしをとってわかめとねぎのみそ汁を作り、ごはんと梅干しをそえてだした。彼女はあっという間にそれをたいらげてしまった。テーブルの上が梅干しのたねだけを残してきれいさっぱりかたずいてしまうと、彼女はやっと満足したようにため息をついた。
「ごちそうさま。おいしかった」と彼女は言った。。。



村上さんの料理の描写がとっても好きでたまに思い出して料理の場面を読み返すことがよくあります
また村上ワールドのおいしい世界を紹介したいと思います
ではまた

タグ :村上春樹


Posted by HAPPY BIRTH CAFE at 11:06│Comments(1)
この記事へのコメント
どもでっす^^
5月27日だというのにondy♪の住む飯綱町は「遅霜警報」がでましたよ(@_@;)サムイィ
ところで!
「すずめ食堂(道)」のブログにこちらHAPPY BIRTH CAFEをリンクさせてください!
不適切であればお知らせください☆
で!ぜひ「すずめ食堂(道)」をリンクしてください♪
というのも。。。
普通にすずめ食堂と検索してもチットもヒットしない(ToT)
少しずつ地道に広げていこうと思ってます^^
では!
Posted by ondy♪^^ at 2010年05月27日 16:38
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