衣食住遊 イセヒカリ 今日無事生かして頂いてありがとう御座います

2011年07月28日

世界の終わり 〜壁からの脱出〜

本の感想です。
村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』より抜粋

世界の終わり
ー脱出ー
p591
「これからどこに向えばいいんだ?」と僕はもう火の気を失ったストーヴの前で体を震わせている影に訊いた。
「南のたまりにいくんだ」と影は言った。
「南のたまり?」と僕は思わず訊きかえした。「南のたまりにいったい何があるんだ?」
「南のたまりには南のたまりがあるのさ。俺たちはあそこにとびこんで逃げだすんだよ。こんな季節だからまあ風邪くらいはひくかもしれないけど、我々の置かれた立場を考えれば贅沢は言えないからな」
「あのたまりの下は強い水流になっているから、そんなことをしたら地底に呑みこまれてあっという間に死んじゃうぜ」
影は身を震わせながら何度か咳をした。
「いや違うね。出口はどう考えてもあそこしかないんだ。俺は何もかもを隅から隅まで考えて抜いたんだ。出口は南のたまりだ。それ以外にはありえない。君が不安に思うのは無理もないが、とにかく今のところは俺を信用してまかせてくれ。俺だってひとつしかない自分の命を賭けているんだもの、いわれのない無茶はしない。くわしいことは道中で説明するよ。あと一時間か一時間半で門番が帰ってくるだろうし、奴は帰ってきたらすぐに俺が逃げだしたことを発見してあとを追いかけてくるだろう。ここでぐずぐずしているわけにはいかないんだ」





「俺がこの街には隠された出口があると思ったのははじめは直感だった。でもそのうちにそれは確信になった。なぜならこの街は完全な街だからだ。完全さというものは必ずあらゆる可能性を含んでいるものなんだ。そういう意味ではここは街とさえもいえない。もっと流動的で総体的なものだ。あらゆる可能性を提示しながら絶えずその形を変え、そしてその完全性を維持している。つまりここは決して固定して完結した世界ではないんだ。動きながら完結している世界なんだ。だからもし俺が脱出口を望むなら、脱出口はあるんだよ。君は俺の言っていることがわかるかい?」
「よくわかるよ」と僕は言った。「僕もそのことに昨日気づいたばかりだ。ここは可能性の世界だってね。ここには何もかもあるし、何もかもがない」
影は雪の中に腰を下ろしたまましばらく僕の顔を見つめていた。それから黙って何度か肯いた。雪は少しずつその勢いを増していた。新たな大雪が街に近づいているようだった。
「脱出口が必ずどこかにあるとすれば、あとは消去法ということになる」と影はつづけた。「門はまず最初に消そう。たとえ門から抜け出せたとしても、門番はあっという間に俺たちを捕まえてしまうことだろう。奴はあのあたりのことは枝野一本一本に至るまで精通している。それに門というのは誰がもし脱出を計画したとすればまず最初に思いつく場所だ。出口というものはそれほど簡単に思いつけるものであるはずがない。壁も駄目だ。東の門もだめだ。あそこはしっかり塞いであるし、川の入り口にも太い格子がはまっている。とても抜け出せない。そうなると残るのは南のたまりたまりしかない。川と一緒にこの街を脱けるんだ」
「確信はあるのかい?」
「確信はある。勘でわかるんだよ。他の出口はどこも厳重に塞がれているのに、南のたまりだけは手つかずのまま放ったらかしにしてある。囲いもない。妙だと思わないか?彼らは★恐怖によってこのたまりを囲っているんだ。その恐怖をはねのけることができれば、俺たちは街に勝つことができるんだ」
「いつそれに気づいたんだ?」
「はじめてここの川を見たときさ。一度だけ門番につれられて西橋の近くまで行ったことがあるんだ。俺は川を見てこう思った。この川には悪意というものがまるで感じられない。そしてこの水には生命感が充ちあふれている。この水を辿ってその流れに身をまかせれば俺たちはきっとこの街を出て、本当の生命が本来の姿で生きている場所にもどることができるってね。君は俺の言っていることを信じてくれるかい?」
「信じることができるよ」と僕は言った。「僕は君の言うことを信じる事ができる。たぶん川はそこに通じているんだろう。我々があとに残してきた世界にね。僕も今では少しずつその世界のことをを思いだせる。空気や音や光や、そういうものをね。唄がそんなものを僕におもいださせてくれたんだ」


以上抜粋です


この言葉がとても印象的でした。

彼らは恐怖によってこのたまりを囲っているんだ。その恐怖をはねのけることができれば、俺たちは街に勝つことができるんだ


おいしい話
http://happybirthcafe.naganoblog.jp/e476250.html


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Posted by HAPPY BIRTH CAFE at 11:48│Comments(0)
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